葵の会では4月から7月まで4回、講師に竹内好夫観世流名誉師範をお招きして、わが国の古典文学を代表する
『伊勢物語』『源氏物語』『平家物語』の中の著名な章段が、時を経て能楽 という演劇空間にどのように再構築
され受容されてきたかを学ぶことにしました。第1回が4月12日に葵の会会員のほか、ところざわ倶楽部会員、一
般の方など40名ほどが出席して盛況狸に開催されました。
「杜若」の謡本を映しながら歌われる竹内講師
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前半は『伊勢物語』の「東下り」「初冠」「西の対」など六つの章段を読みました。竹内講師は20ぺージ以上
の資料をプロジェクターを駆使されて、講義を進められました。田辺聖子は『文車日記』で、「在原業平は男の気
骨さをもち、その剛直さが彼の恋物語を色深く染め上げている」と誉め、『伊勢物語』を「恋の見本帳」とよぶと
書いています。930年ごろ成立した『伊勢物語』125段のうち60%、75段が『むかし、をとこ、ありけり』で
始まります。をとこ=在原業平です。皇族出身の美男で上手い歌詠みである彼の歌とそれにまつわる物語という歌
物語という形式です。
伊勢物語絵巻「東下り」
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竹内講師は、能舞台のほか地謡は前後4名ずつ8名で謡うが、後列の右から2番目がリーダーであることなど基
本的なことも丁寧に説明されました。
今回取り上げる能作品は、いずれも世阿弥元清の作品です。能の演者、演出家、演劇評論家としての世阿弥の活
躍で能楽がどう大成されたか。能楽は多彩な古典作品を基盤として視覚化・空間化・聴覚化され650年の歴史を
誇っているのです。
伊勢物語の六つの章段が、430年後に能『杜若』にいかに取り入れられているか、段落構成がわかりました。世
阿弥は在原業平を歌舞の菩薩の化身として描き、人間以外の草木なども成仏できると思想的、仏教的解釈を加えて
います。
杜若(アヤメ科の多年草 池沼または湿地に 高さ70センチほど |
講師は序の舞を舞い終えた杜若の精が薄暮の中に姿を隠す部分を朗々と謡って講義を終えられました。観世流名
誉師範の謡にみなさん満足されたようです。
先日、新緑がまぶしい北の丸公園の東京国立近代美術館へ『生誕150年 横山大観展』へ出かけました。私の好
きな『屈原』が第1会場の入口に展示され、また伊勢物語23段の『井筒』(大観31歳の作品)があって驚きまし
た。『井筒』は第2回の講義で学ぶ予定だから・・・。第2会場には長さ40メートルの日本一長い『生々流転』
が展示されていました。至福の2時間でした。 (完)
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