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1 |
おめいさんたち、こんだー猫の話してやんべー。
あんだ、犬のほうがいいか
そうだんべなー。
猫は昔っからあんだかうすっ気味の悪い動物だもんなー。
でもな、この猫の話、めっぽうおもしれいぞ。
そりゃー、えれい昔のことだ。
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2 |
所沢にな、喜平次という気がやさしいがな、
ちーとんべどころか、えらく気のちっちくせい桶屋が、
一匹の三毛猫を飼っていたんだなー。
あんだか知んねぇけんど、この三毛猫めっぽう可愛がっていて、
そりゃもう。うすっ気味の悪いくれいだった。
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3 |
ところがなー、ある年のこれの晩のことだ。
あんだかあぁ、でーどころのすみっこの方で、うすっ気味の悪い音がしてるんでな。
喜平次は眠ってい目えこすって、そうーと音のする方をのぞっこいてみると、
そりゃーもう、ぶったまげた。
あんだって、昼間はあんにもうごかねぇでな、眠ってばかりいるあの三毛猫が、
てのごいかぶって、行灯のわきではしゃぎまわって踊ってけつかる。
それを見た気のちっちくせい喜平次はな、まっつぁをになって
「あんてぇこんだ、猫は、あんにでも化けたりする。
人間にバチあてたり、魔物とは聞いていたが、とうとう本性をだしやがったな。
あにか、祟りでもあっちとんでもねぇことになるかもしんねぇ。
えれえことになったなー」とぶるぶる震えてすくみ上がってしまった。
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4 |
でもそんなことめったやたらに周りの人に話すわけにもいかねぇので、
祟のねぇように黙りこくっていたんだなぁ。
ところが、あんだかしんねぇけど、どういう訳だか、その晩から
急に商売の桶が売れなくなってしまって、日銭にも困るようになった。
そのうち喜平次はすっからかんの貧乏になっちまってなぁ、
とうとう三毛の餌も買えなくなってしまたんだとよぅ。
喜平次はてっきり猫のせいだと思い込んでな、三毛うっちゃろうとかんがえたんだが、
どうもかわいそうでうっちゃれねぇ。
でぃもこのままにしておくと、まっと悪いことがおきんじゃねいかと
ふんぎりがつかねいで、めぇ日めぇ日、あれこれとせん気病んでいたんだなぁ。
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5 |
その年のえびす講の日のことだ。
江戸から来た魚の行商を、ひっつかまえた喜平次は、残っていた金全部を
放り出してな、イワシと米をありったけ買って、あか飯炊いて、ごちそうを
よういしちょったんだ。
そんでもってなぁ、三毛に腹いっぺぇ食わせてから、三毛をうっちゃろうと
決心したんだなぁ。
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6 |
喜平次は「おーい三毛、こっちゃにやべぇ、このイワシとあかめしおもいきって
食らえや。おらなー、ここんとこすっかり商売が下火で、桶ひとつ売れねぇ。
もうすっからかんのおけらになって、三毛、おめぇに毎日食わせる餌も買えねぇ。
おれ一人で食っていくのがせーいぱいだ、悪いけんど、これから、おめぇを
養うこともできねぇ。どっかー親切なぬくとい家に拾われていってくれやぁ。
俺わなー、おめえが魔性だろうと、かまわねぇけんど、おめいがここにいたんじゃ
おれもおめえものたれ死んでまうからなぁ。可哀そうだけんど、どっか、
出ていってくれ、たのまーたのまー」と三毛に言い聞かせたとな。
「でも三毛や、おれの家から出ていってもな、おまえの魔性を、これからは人様の
ためになるように使うんだぞ。そんじゃねぇとまーた、おめいさん、
食えなくなっちゃうべー。
気をつけろや、だから、悪いけんどおれの家から
出ていってくれや。たのまー。たのまー。
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7 |
しんみりと聞いていた三毛は、喜平次が言ったことが、判ったようにみえたんだなぁ。
イワシとあかめし、いっぱい食らって、いつのまにか喜平次の家からいなくなって
しまったんだとよぉ。
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8 |
そんな事があってな、その年の暮のことだった。
所沢の和泉屋という料理屋のとぼぐちになぁ、一匹の猫が、やせ細って
ころがりこんで来たんだ。
それをめっけた女中さんとおかみさん、
「あんれまぁ、あんで可愛い三毛猫だんべー、おかみさんこの猫飼ってやんべーよ。
ねー、おかみさん、飼ってもよかんべーか」
女中が熱心に言うもんだから、おかみさんも
「ああよかんべー。そんなに飼いたかったら飼ってやんな」と言ってな
和泉屋で飼うことにしたんだとよ。
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9 |
ところが、暮が過ぎてお正月になると、きていなことが起こったんだぞ。
でーどころのかたっすみで寝っ転がっていた三毛が、あに思ったかしんねぇけんど、
店先に出て、店の前を通る旅人に向かってな、おいでおいでと手招きをこき
はじめたんだと。
店先でおいでおいでをしている三毛を見て、みんなぶったまげて
「あんちゅうだんべー、店のめぇで猫がおいでおいでこいてる。
めっぽう面白い店だなあぁ。そんじゃまあ、ちっとんべーよつてみんべーか」と
面白がって、みんながいっぺいー和泉屋に立ち寄るようになったんだ。
この通りは、えれぇ昔から鎌倉街道といって、江戸にいくためのえらく重要な道で
めぇ日めぇ日たくさんの人で賑わっていた道だんべ。
そんな訳でな、いつの間にか噂が噂をよんで広がって、しめいにはその猫見たさに、
江戸からぁもちろん、あちこちの町から遊びに来る人も出てきたんだ。
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10 |
おかげでなぁ。和泉屋は大繁盛、」しこたま金儲けして、大金持ちになった。
そのうち和泉屋にあやかって猫を飼ったり、中にはわざわざ和泉屋の近くに料理屋を
出すものまで現れてな、そりゃもうめっぽうこの辺は賑わったが、
この猫も、何年もするうちに年いとって、老いぼれてうっちんじまった。
それから、だいぶたった明治の初めになぁ、所沢の料理屋さんが、
鎌倉街道のちっとんべー高い塚野のてっぺんに、『福猫塚』と言ってな、
お金もうけの塚として祭ったんだと、この福猫塚にお参りするとな、
きていなことにねぇ、いっぺい銭が儲かると噂が広がって、
お参りに来る人がめぇ日めぇ日、
後を絶たないで賑わったということだ。
ところがな、この福猫塚も、その後、野火がもとで火事になってつんむしちゃったてな。
いまじゃ跡形もねぇ。
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でもな、鎌倉街道だけは今でも残っているよ。
おめえさん方が、めぇ日めぇ日あるって学校に行く道がそれだ、
おめぇら猫でも犬でも、生きものは可愛がんねえといけねいぞ。
そまつこくとな、いつかバチが当たんべー。
でもな、でいじにすると、えーこといっぺいあんぞ。
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そんじゃ、今日の話はこれでおしめえだ。こんどまた、まっとおもしれぇ話してやんべー。 |