民話の会 民話紹介コーナー
           
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10.河童のお伊勢参り

        
 
みんなこっちに来ねえかぁ。

これからおもしろい話さすんからなぁ。

              

 

       
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三匹の河童が人間さまみたいにお伊勢参りをしたんだとよぅ。                   
それがな、ただおとなしく行ったならお話にはならなかったが、
              
悪知恵のある河童どもが、まあた悪さこいて、人間さまに迷惑かけたんだなぁ~。

 

       
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北秋津の持明院の近くを流れる柳瀬川にな、まんだら淵という深けぇ深けぇ淵があってな。

 

 

       
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ここに、悪さこく亀五郎という河童がすんでたんだな。
こいつはうんと若けえころに、あんまりひどい悪さこきやがるんで、人間さまにとっつかまり、お坊さまにしこたま説教されたうえに、「二度と悪さはしません」と、詫び証文を書かされたことがあるんだなぁ。
なんせ、河童のくせに字が書けるくれーだから、頭がいいんだ
なぁ。そんでもってな、何年かして、そん時の詫び証文はお寺の大火事で焼けちまったんだと。
多分、亀五郎のやつ、無罪放免てなもんで、いい気になったんだんべ
ぇ。そんでまあた悪さこく悪知恵がひょっこり頭もたげてきたんだなぁ。

亀五郎「人間様は、一生に一度は、必ずお伊勢参りをするそうな。
わしら河童も一度は行ってみ    んべぇ」ということになった。
ここにすぐさま話に乗りそうな二匹の河童がいてな。こいつら鶴衛門、ゴン乃介という丁度悪さこきたくなる若い河童だあ。亀五郎が話すとすーぐな。             
       
 

鶴衛門「兄(アニ)さん。そりゃいい考えだ。わしらもぜひお伊勢参りさ、お伴させてもらうべ    ぇ」

ゴン乃介「そうだ、そうだ。わしらもごりやくにあやかるべぇ」とい うことで、早速旅支度をし     て、お伊勢様への道行とあいなった。

亀五郎「わしらこのままの恰好ではいけねえなぁ。
人間さまに化けて、人間のすることしてみん    べぇ」

鶴衛門「そりゃあ、いい考えだ。
さっすが兄貴、頭の出来がおいらたちとは違うなあ」 

ゴン乃介「あたりめぇだ、だから兄貴分なのだからなぁ。安心してついていくべぇ」

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亀五郎「恰好はどうでも、金さえあればどうにかなるもんだ」と、みすぼらしい身なりの人間に    なって、そろって旅にでたとな。

道中は長い。どうしたって旅籠にも泊まる。三人は初めて旅籠というところに泊まることになったんだ。 

鶴衛門「兄さん。どうすんべぇ。人間が使う銭っこはおいらたちに は無かんべぇ」  

ゴン乃介「そうだよ。しょうがないから今夜も川さ探して淵にでも寝っころがるべぇ」 

 

       
 

亀五郎「心配するねぇ。一回ぐれえ本物の旅籠さ泊まらなくちゃぁ、お伊勢参りと言えるか。 

    ほ~ら、ちゃ~んと、タニシのフタさ、人間様に、銭っこに見えるようにな、化かして    持ってきたって」

 グエッ グエッ グエッグエ(鶴衛門とゴン乃介が声を出す)

       
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その晩の銭っこの使いっぷりったら見せてやりてーぐれーだ、               「チャンチキ! チャンチキ! カッパパー!」 踊るわ 歌うわ。

タイやヒラメの刺身、食ったこともねーような料理ばかり、次から
次へと並べさせた。

亀五郎「ジャンジャン、ジャンジャン酒もさかなも、持ってきてくれー」「もってきてくれ!」と言っては、酒を飲み、女中達にも気前よくお金をやるので、宿の 旦那さんは首をかしげて

宿の主人「さてはどこぞのお殿様のご家来衆が、お忍びでお伊勢参りでもするのだろう、身分が     ばれないように、わざとみすぼらしい身なりをしているのかもしれないなぁ」 

ところが翌朝、上機嫌で三人が旅立った後、急に心配になった主人、

宿の主人「これ、夕べの宿賃をここにもってきなさい」

       
 
女中「はーい!」  「あんれー、旦那様。どこにもお金なんかないですよぅ。          タニシのフタですよ! わあーん、それじゃあ、あたしがもらった心づけも、もしかしたら  ?」
  と、いって自分の懐に手を入れて確かめた。やっぱりタニシのフタばかり。

                

 

       
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宿の主人「あいつら、一体なに者なんだぁ、許さん! すぐ奉行所へ届けてやる」

女中「旦那様、だんなさま だんなさま あいつらは人間ではありませんよ。きっと タヌキかム   ジナですよ。 だまされたんですよ。だまされたんですよ」

宿の主人「タヌキだろうがなんだろうが、とっつかまえて、懲らしめてやらなくちゃ気がすまね     ぇ」

 

       
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女中「旦那様。ここはお伊勢様のご門前ですよ。勘弁してやりましょうよ。みぬけなかった
   わたしらもいけな
かったんですよぅ。多分出来心だったんですよ。そのうちいいことが
   回って来ますからだまされたとおもって勘弁してやりましょ。ねっ。ねっ」
 

宿の主人「うーん。さてさて、どうしたもんじゃろうのぅ~、どうしたもんじゃろうのぅ~

     みぬけなかったわしらもいけなかったかぁ」と、

結局、泣く泣くあきらめることにしたそうな。
       
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ところで三匹の河童は、その後どうしたかってぇ?

タニシのフタのお金で人間をだまして、たらふくご馳走を食べて、念願のお伊勢参りをしてな、

そのみやげ話を得意になって話をしているうちに、悪さをしたことをえらく後悔するようになったんだなぁ。                 

 

                      

       
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毎日、お伊勢様のお守りを拝んでいるうちに、河童どもは、悪さ をしたことを反省するようになったんだなぁ。

すっかりおとなしくなっちまってな、悪さする噂も聞かなくなっ た。

河童どもが悪さこかなくなったのは、やっぱりお伊勢様のご利益かもしんねえなぁ。

 

       
     
三匹の河童は、いまもなかよく魚でも取って楽しくやっているにちげえねぇ。

女中の優しさも知んねえでなぁ。