民話の会 民話紹介コーナー
           
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2.弘法の三ッ井戸

        
  こんだー 弘法の三ッ井戸の話してやんべー
あのなー この所沢っていうとこはな、とんでもねぇ水の不便な所でなぁ
ずーっとずーっと昔から、所沢にはな、嫁にこじくな、と言われたほど、
水汲みはてぇへんな仕事だったんだなぁ
そうだんべなー。
あんでかと言うとな、昔はどの井戸もつるべ井戸でなー
そりゃー、何百尺も深いところまで桶さげなきゃいけねぇ そんな井戸だから、
そりゃあもう めい日めい日、水汲みはてぇへんな仕事だったんだなぁ 

それどこか、めぇ年といっていいほど夏場になるとなぁ、
井戸の水がちっとんべーになっちゃったり、これはだいじょぶだなぁと思っている
ふけぇふけぇ井戸でせぇ、水が無くなってなとんでもねえ遠くまで、
水をもらいに行くことは、あたりめぇだった
所沢の人たちは、水じゃーしこたま()りた暮らしをしていたんだなぁ。
       
  2  そりゃとっても昔の話でな、まだ所沢がちっちくせい、人の数も
ちっとんべーの村だったころの話だ。


村の西の方の一軒の百姓家に、とっても気立てのいいめどっこがおった。

ある夏の、とんでもねぇあちい日のことだったなぁ

       
  3  家の中でな、わら仕事をしてるとなぁ、とぼぐちのめぇに、一人のお坊様が立った。
「あんれまー、あんでこんなめっぽうあちい日に。ちょっくら待ってくんなー、
ちっとんべーだけんども、お米あげんべー」と言ってな、でーどころに行こうとすると、とぼぐちのお坊様はてぇ振って、「わたしは托鉢でここにきたんじゃねーんです。
あんまり
あちい日なので、うっちんじまいそうだ。あんにもいらねぇから
水一杯くらっしゃらねいか」


そう言うお坊様は言われてみると、あんとなく、時々回ってくる托鉢のお坊様と
ちょっくら違って、あんだかばかに偉そうなお坊様のようだった。
       
  4  「あれ、ごめんなせいまし、そんじゃー、すっとんでいって水汲んでくるから、
ちっとんべーの間、この上りはなに座って、待っててくんな」と言って出て行った。
  お坊様は腰をおろして待つことにしたが、 
どーしたわけか、いくら待ってもなかなか帰ってきねー。


えれえ時間まっても、いっこうにめどっこは水もってこねぇ。

あにこいてんだんべー、と思っていると、やっと桶に水を汲んでけえってきた。
「はぁはぁ お坊様お坊様、しゃっこい水汲んできたので、
いっぺぇ飲んでくりやっしゃれ」
       
  お坊様はもう喉がからからだったので、お椀の水をいっぺんに飲んだ。
「ああ、うんまかった。うんめい水だ。こんなうんめぇ水のんだことはねえ。

助かったぁ。どうもごっつおさま」と言いながら、
お坊様はきていな顔をしてめどっこの顔を見て、

「これめどっこちょっくら聞きてえことがあるんだが、
あんで、
あんなにえれえ時間がかかったんだかね」と聞き直した。
するとな、めどっこが、ちっとんべーはずかしそうに、
「あにしろこの所沢は、水の便がめっぽう悪い所で、こんなにあちい日が続くと、

でえてえ、せどにある井戸は、すぐに水が空っぽになって、
とんでもねぇ所までもらい水をしに
行かなくっちゃしょうがねえんです」と返事こいた。
       
  6  お坊様は、ちょっくらしんぺいそうな顔をして、こっくりうなずいて、
「あんだか、そんなふけえ訳あったんだ、と言ってちっとんべーあにか
考ているふりしたが、
上がりはなから腰をあげると、
「そんじゃわしがあんとか力になってやんべー。めどっこ、 このわしの後からついてきねかや」と言って、畑の方に歩きはじめた。

めどっこは、きていな事をこくもんだと思いながらお坊様の後についていくと、

お坊様は畑のあっちこっち杖でこつこつとつっつきながら、腰をかがめて、
あんだかしんないけど、
お経みてえのをぶちぶち言いながら歩き回った。
しまいには、一つ所にかがんで、きていなお経を言い続けた。
しばらくしてお坊様は立ちあがってな、

       
  「ほう、わかった。これめどっこ、この場所を忘れねえように、
あにかしるしでもしておけや」
 
めどっこは、このお坊様は、ぺーさらぱーさらこいてんじゃねいかと
おもったんじゃけえどな、

あんにも訳がわかんねえまま、近くの木の枝おっぴしょって、お坊様が言う場所に
つっさしておいた。

「こんだーまっと違う所みてみんべー」と、お坊様は十間ほど歩いて腰をひんまげて
お経を言ってな、
「めどっこ、ここにもしるしつけろや」
こんだー二十間ほど歩いて、まためえと同じようにしるしをつけさせた。

「ほれ、いましがた目印をつけた所を、こんだー村の人たちの力を借りて掘ってみろや。
ちっとんべー浅くったって、ぜってえ水がでんだんべー。
それにな、夏でも水が枯れることはなかんべーよ。
わしゃうそはこかねぇ。信じてくんな。
 
       
  8  わしゃ先急ぐもんだから、これで行くとするが、村の衆と力を合わせて、
きっと掘ってみろや」と
言うと、お坊様はどことなくおっぱしってしまった。

その日の夜な、そんなきてえな話を聞いた村の人たちは、見も知らねえ坊様のことだ、 「あんだかしんねえけど、ぺーさらぱーさらこいて、めどっこをだましたんだんべー」 「いやちがうべー、きっとそりゃたぬきかむじなじゃなかんべーか」などとこいて、

はなっから信用しなかったじゃけんどな、あんまりしつこくめどっこが言うもんだから、 だまされたと思ってほってみんべーと言うことになった。
       
  次の日の朝っぱら、井戸掘りが始まった。
わいわいがやがや、みんなではしゃぎながら掘っているとな、
あんだかそんなことあんめいと
思っていた村の衆は、みんなびっくりこいてしまった。
あんたって、きていなことに、ちっとんべー掘り始めたところから、
きれえなひゃっこい水がいっぺぇ
出てきやがった。
       
  10  「おーい、おめいら、この井戸はたった一間べえ掘ったら、
きれえなひゃっこい水がでてきたぞー」

「ふぇー あんだこりゃー こっちの方も水がでたよー」

「うわー こっちもだー」どの場所も、きれえなひゃっこい水が出はじめたんだなぁ。

村の人たちはもうびっくり、えれえ騒ぎになって、いくんちもたたねえまに、
この話は、
あっちこっちに伝わって、遠くの人まで見に来るようになった。
この井戸は、それから、夏のあちい日でも、冬の水のねえ日でも、
枯れることがなかったんだとよ。

でもな、この井戸を教えてくれたお坊様はだれだったんだんべー。

「そりゃー たぬきやむじなじゃなくって、めっぽうえれえお坊様だ。

きっと、ほんものの弘法大師様にちがえねえ」、「そうかもしんねえなぁ」と、
そんなふうなうわさが立ってな、井戸の脇にお堂を建ててな、
弘法様をお祭りすることにしたんだと。
 
       
  11  弘法様の恩を忘れねえように、
今ではな、めい年八月の二十日とな、二十一日には、
弘法様を
お祭りして、にぎやかな市ができるんだとよー。

おめーさん方もな、その日には行ってみたらよかんべー。
その場所はな、金山町の行政道路の脇にあんべー。
そうだ。昔っからな、神様や仏様を大事にすると、きっといいことあんべー。

 


 そんじゃ、今日の話はこれでおしめえだ。こんどまた、まっとおもしれぇ話してやんべー。