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1 |
こんだー 弘法の三ッ井戸の話してやんべー
あのなー この所沢っていうとこはな、とんでもねぇ水の不便な所でなぁ
ずーっとずーっと昔から、所沢にはな、嫁にこじくな、と言われたほど、
水汲みはてぇへんな仕事だったんだなぁ そうだんべなー。
あんでかと言うとな、昔はどの井戸もつるべ井戸でなー
そりゃー、何百尺も深いところまで桶さげなきゃいけねぇ そんな井戸だから、
そりゃあもう めい日めい日、水汲みはてぇへんな仕事だったんだなぁ
それどこか、めぇ年といっていいほど夏場になるとなぁ、
井戸の水がちっとんべーになっちゃったり、これはだいじょぶだなぁと思っている
ふけぇふけぇ井戸でせぇ、水が無くなってなとんでもねえ遠くまで、
水をもらいに行くことは、あたりめぇだった
所沢の人たちは、水じゃーしこたま懲りた暮らしをしていたんだなぁ。 |
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2 |
そりゃとっても昔の話でな、まだ所沢がちっちくせい、人の数も
ちっとんべーの村だったころの話だ。
村の西の方の一軒の百姓家に、とっても気立てのいいめどっこがおった。
ある夏の、とんでもねぇあちい日のことだったなぁ
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3 |
家の中でな、わら仕事をしてるとなぁ、とぼぐちのめぇに、一人のお坊様が立った。
「あんれまー、あんでこんなめっぽうあちい日に。ちょっくら待ってくんなー、
ちっとんべーだけんども、お米あげんべー」と言ってな、でーどころに行こうとすると、とぼぐちのお坊様はてぇ振って、「わたしは托鉢でここにきたんじゃねーんです。
あんまりあちい日なので、うっちんじまいそうだ。あんにもいらねぇから
水一杯くらっしゃらねいか」
そう言うお坊様は言われてみると、あんとなく、時々回ってくる托鉢のお坊様と
ちょっくら違って、あんだかばかに偉そうなお坊様のようだった。
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4 |
「あれ、ごめんなせいまし、そんじゃー、すっとんでいって水汲んでくるから、
ちっとんべーの間、この上りはなに座って、待っててくんな」と言って出て行った。 お坊様は腰をおろして待つことにしたが、
どーしたわけか、いくら待ってもなかなか帰ってきねー。
えれえ時間まっても、いっこうにめどっこは水もってこねぇ。
あにこいてんだんべー、と思っていると、やっと桶に水を汲んでけえってきた。
「はぁはぁ お坊様お坊様、しゃっこい水汲んできたので、
いっぺぇ飲んでくりやっしゃれ」
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5 |
お坊様はもう喉がからからだったので、お椀の水をいっぺんに飲んだ。
「ああ、うんまかった。うんめい水だ。こんなうんめぇ水のんだことはねえ。
助かったぁ。どうもごっつおさま」と言いながら、
お坊様はきていな顔をしてめどっこの顔を見て、
「これめどっこちょっくら聞きてえことがあるんだが、
あんで、
あんなにえれえ時間がかかったんだかね」と聞き直した。
するとな、めどっこが、ちっとんべーはずかしそうに、
「あにしろこの所沢は、水の便がめっぽう悪い所で、こんなにあちい日が続くと、
でえてえ、せどにある井戸は、すぐに水が空っぽになって、
とんでもねぇ所までもらい水をしに
行かなくっちゃしょうがねえんです」と返事こいた。 |
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6 |
お坊様は、ちょっくらしんぺいそうな顔をして、こっくりうなずいて、
「あんだか、そんなふけえ訳あったんだ、と言ってちっとんべーあにか
考ているふりしたが、 上がりはなから腰をあげると、
「そんじゃわしがあんとか力になってやんべー。めどっこ、
このわしの後からついてきねかや」と言って、畑の方に歩きはじめた。
めどっこは、きていな事をこくもんだと思いながらお坊様の後についていくと、
お坊様は畑のあっちこっち杖でこつこつとつっつきながら、腰をかがめて、
あんだかしんないけど、お経みてえのをぶちぶち言いながら歩き回った。
しまいには、一つ所にかがんで、きていなお経を言い続けた。
しばらくしてお坊様は立ちあがってな、
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7 |
「ほう、わかった。これめどっこ、この場所を忘れねえように、
あにかしるしでもしておけや」
めどっこは、このお坊様は、ぺーさらぱーさらこいてんじゃねいかと
おもったんじゃけえどな、
あんにも訳がわかんねえまま、近くの木の枝おっぴしょって、お坊様が言う場所に
つっさしておいた。
「こんだーまっと違う所みてみんべー」と、お坊様は十間ほど歩いて腰をひんまげて
お経を言ってな、「めどっこ、ここにもしるしつけろや」
こんだー二十間ほど歩いて、まためえと同じようにしるしをつけさせた。
「ほれ、いましがた目印をつけた所を、こんだー村の人たちの力を借りて掘ってみろや。ちっとんべー浅くったって、ぜってえ水がでんだんべー。
それにな、夏でも水が枯れることはなかんべーよ。
わしゃうそはこかねぇ。信じてくんな。
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8 |
わしゃ先急ぐもんだから、これで行くとするが、村の衆と力を合わせて、
きっと掘ってみろや」と 言うと、お坊様はどことなくおっぱしってしまった。
その日の夜な、そんなきてえな話を聞いた村の人たちは、見も知らねえ坊様のことだ、 「あんだかしんねえけど、ぺーさらぱーさらこいて、めどっこをだましたんだんべー」 「いやちがうべー、きっとそりゃたぬきかむじなじゃなかんべーか」などとこいて、
はなっから信用しなかったじゃけんどな、あんまりしつこくめどっこが言うもんだから、 だまされたと思ってほってみんべーと言うことになった。
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9 |
次の日の朝っぱら、井戸掘りが始まった。
わいわいがやがや、みんなではしゃぎながら掘っているとな、
あんだかそんなことあんめいと 思っていた村の衆は、みんなびっくりこいてしまった。
あんたって、きていなことに、ちっとんべー掘り始めたところから、
きれえなひゃっこい水がいっぺぇ出てきやがった。 |
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「おーい、おめいら、この井戸はたった一間べえ掘ったら、
きれえなひゃっこい水がでてきたぞー」
「ふぇー あんだこりゃー こっちの方も水がでたよー」
「うわー こっちもだー」どの場所も、きれえなひゃっこい水が出はじめたんだなぁ。
村の人たちはもうびっくり、えれえ騒ぎになって、いくんちもたたねえまに、
この話は、あっちこっちに伝わって、遠くの人まで見に来るようになった。
この井戸は、それから、夏のあちい日でも、冬の水のねえ日でも、
枯れることがなかったんだとよ。
でもな、この井戸を教えてくれたお坊様はだれだったんだんべー。
「そりゃー たぬきやむじなじゃなくって、めっぽうえれえお坊様だ。
きっと、ほんものの弘法大師様にちがえねえ」、「そうかもしんねえなぁ」と、
そんなふうなうわさが立ってな、井戸の脇にお堂を建ててな、
弘法様をお祭りすることにしたんだと。
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弘法様の恩を忘れねえように、
今ではな、めい年八月の二十日とな、二十一日には、
弘法様をお祭りして、にぎやかな市ができるんだとよー。
おめーさん方もな、その日には行ってみたらよかんべー。
その場所はな、金山町の行政道路の脇にあんべー。
そうだ。昔っからな、神様や仏様を大事にすると、きっといいことあんべー。
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そんじゃ、今日の話はこれでおしめえだ。こんどまた、まっとおもしれぇ話してやんべー。 |