民話の会 民話紹介コーナー
           
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8.東光寺の金比羅さん

        
 
坂之下 東光寺の金毘羅さん

 

 

       
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今日はまだ肌寒い三月十日、金毘羅さんの縁日です。
祭りばやしも聞こえます。
おじいちゃんについて、初めてお参りに来たタカシは「いつもひっそりしているのに、あんまりにぎやかなんで、僕びっくりしたよ」

と言って、お堂を見上げ「古い建物だね、おじいちゃん!これはいつ頃 造られた の?」
「そうかタカシは初めてだったか。この金毘羅さんはね、三百年くらい前に祀られたらしいよ。おじいちゃんがここに越してきたのは三十年前だけど、土地の人の話では、戦争前には、サーカスや見世物が来て、学校は短縮になって、臨時のバスまで出たりと、それはそれは賑わったそうだよ。
そういえば、金毘羅さんが出来た時のおもしろい話も聞いた事があるよ」

           
それはこんな話でした…。
       
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江戸の芝という所に「青松寺(せいしょうじ)」というお寺があった


そこは住職になるために、師匠につき修行をする場であった。

その中で一番弟子であった和尚さんは、ある日師匠に「ここでの修業はもう充分じゃ、自分の寺で立派にお勤めを果たしなされ。聞けば寺の御堂を村人たちが十八年もかけて造って下さったというではないか。そんな信仰厚い村人を大切にな。人間一生修行じゃよ」と言われ、江戸から七里ばかりの地、坂之下の東光寺へ帰ってきたのだった。

村の衆とも心を通わせ、平穏な日々が過ぎて行った。

 

       
  4  ある時「青松寺でお世話になった師匠が亡くなられた」との知らせ受けた。

和尚さんは急いで江戸へ向かった。 しかし、弟子たちの中で一番遠くにいたため、着いた時には全てが終っていた。
弟子たちへの形見分けも済んでいた。
和尚さんが本堂で師匠のためにお経をあげていると、亡くなられた師匠の声が耳元で聞こえた。「私の文机(ふづくえ)の上に常に私を守ってくれていた金毘羅様がある。これからはお前を守ってくれるだろうから、大事に持ち帰るが良い」と。

和尚さんはお告げのとおり金毘羅様を師匠の形見として頂いて、東光寺へ持ち帰り本堂に棚を作り祀ったのだった。
       
 
それから何年か経ったある夜、和尚さんは夢の中で金毘羅様に「どんなにちっちゃくてもいい、自分だけのうち(家)が欲しい。造ってはくれないか」と頼まれた。

朝になり、本堂の棚の金毘羅様を仰ぐと「頼んだぞ!」という お顔をなさっている。
       
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これは名主さんのとこへ相談に行かねばと身支度をしていると「おはようございます。朝早くからお邪魔しますだ」と、名主さんの声が庭の方から聞こえた。

「おはようさん!今、名主さんのとこへ行こうと思っていたんですよ。ところで、こんなに早く何の用かね」「実は(ゆん)べ不思議な夢を見ましただ」と、名主さんが見た「夢の話」は、なんと和尚さんが見た金毘羅様の夢と全く同じだった。二人は顔を見合わせ、しばらくは言葉も出なかった。
       
 
「これは・・・早速にお堂を建てにゃなるまいのう」と、名主さんが言うと「そうじゃな、これからはご本尊の薬師様と同じように金毘羅様も大事にお祀りしよう。とにかくよろしく頼む」と、その時、和尚さんは師匠のお告げの言葉を思い出していたのだった。            

「こうしちゃおられん。村の衆に早う話をすべえ」と、名主さんは皆を集め話し合い、
金毘羅様のお堂を建てようという事に決まった。

 

       
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やがて、本堂の裏側にかわいらしい、しかし立派な彫刻をまわしたお堂が出来上り 無事金毘羅様を祀ることができた。

和尚さんには金毘羅様のお顔が一瞬満足そうにうなづいたかに見えた。

 

       
 
「坂之下に金毘羅さんが出来た」という話は、すぐに広まり、縁日には近隣はもちろん、朝霞、志木、小金井など遠くからもたくさんの人がお参りに訪れるようになったそうだ。
       
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おじいちゃんとタカシは、笹を持ちお堂をひと回りしてから、金毘羅さんにお参りしました。         
「タカシは、何をお願いしたのかな?」「それは・・・ないしょ」「そうか、内緒か」

「おみくじの所に大勢並んでいるね」「タカシもひいてごらん。神様からのメッセージだよ」「ぼく、引いてみる」「何て書かれているかな?」「あれ!・・・この字読めないよ」
「ああそれは、くずし字といって筆で書かれた字だからね。裏返してごらん、タカシにも読める字で書かれているはずだよ」「ほんとだ!吉だって・・・望みが叶うって書かれているよ」「ほう!それは良かった!タカシが読めなかったおみくじは江戸時代中頃に作られたものだそうだよ」

「えぇ~!! 江戸時代か・・・すごいね」

 

 

       
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絵馬堂をのぞいたタカシは、 「古い絵馬がたくさん掛かっているね」      「そうだね。小さい絵馬はお願い事が書かれているんだよ。立派な絵馬は願いが叶った時に、お礼として納められたものだろうね」

「あそこに、怖い顔した天狗が描いてあるけど・・・?」
「天狗さんは金毘羅さんのお使いだそうだよ」
「おじいちゃん、今日、連れてきてくれてありがとう!」           「どういたしまして!
そうだ、ばあさんに頼まれたダンゴを買って帰ろう」


振り返ると、高い木々に囲まれたお堂の前には、五色の幟旗が、春風にゆれています。
       
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「朝 金毘羅に 夕 薬師」という言葉があるように、金毘羅さんに朝早くお参りするとご利益も大きいとか。

皆さんも十日の縁日、または三月十日の大祭にお参りなさってはいかがでしょう。