2017 1 -6 記 小嶋一郎(自称宇宙オタク)
はじめに
天の川と言えば誰もが年に一度七夕の日に織姫と彦星が再会出来ると言うロマンティックな日を知っている。
そしてきらめく星空に夢を描いたものです。
おそらく、このテーマ「銀河鉄道の夜」の筆者宮澤賢治は天の川銀河を見て、私には及びもつかない感覚(死生
観、自然観)をもってこの銀河を見ながらこの物語を描いたのではないかと考えます。
私はちょうど2年前に私達が住む地球は天の川銀河(Milky Way Galaxy)の太陽系に属している事を知り、天
の川銀河はどんなものかを調べ「大宇宙 地球は天の川銀河の太陽系にある、その正体、生死秘話!!」と
題して執筆したことを思い出します。そしていろいろの事実を知りました。今、この物語を深く見つめてみると
宮澤賢治は科学的知識の深さと宗教観、宇宙観を持っていた事に改めてびっくりさせられました。
この物語は宮澤賢治の他の童話とは異なり多少とっつき難いところがありますが、しかし星座に興味を持ち、宇
宙に興味を持つ私には大変興味深いものです。
宮澤賢治は主人公の一人ジョバンニを自分に見立てて天の川銀河の世界、宇宙観を語っていると考えます。
私達の多くは小さな頃、夜空の星に魅了し、星座の成り立ち、宇宙の不思議に興味を抱き、深く知ろうとの夢を
抱いたと考えます。
ここで私は今一度宮澤賢治の世界を振り返り、感動の世界を考えたいと思い、以下の参考資料をもとに私の考え
を「銀河鉄道の夜」物語のストーリに従って記述しました。一読願えれば光栄に思います。
特に夜空の銀世界、限りなき世界を夢多き子供達に伝えられればと思います。
注:執筆に当たり、コズミックフロント☆NEXT「銀河鉄道からのメッセージ 宮澤賢治の宇宙論」を参考に
して私の考えを加えて執筆しました。他に「銀河鉄道の夜」角川文庫、銀河鉄道の夜英語対訳版「Night Train
to the Stars and other stories」講談社とインターネットWikipediaも参考にしました。
本文には天文学の専門用語が多く出て来ます、興味のある方はインターネットWikipediaで検索して見てくださ
い。宇宙オタクになりますよ!!
天の川銀河の姿
地球の位置(銀河系での住所)
地球は天の川銀河のオリオン座腕にあります。
地球の銀河系での住所は:天の川銀河→オリオン腕→太陽系第3惑星
宮沢賢治「銀河鉄道の夜」の物語
天の川銀河「銀河鉄道の夜」。
ジョバンニとその友人のカムパネルラが銀河鉄道で天の川の旅をする物語です。
旅は「北十字」はくちょう座から始まり、わし座、南十字を通り石炭袋へと続く。
物語には実際に天の川周辺にある星や星座が登場し、夜空への思いをかき立てています。
銀河鉄道の行程は北半球の天体から南半球の天体に渡っていて北半球からは見えない場所も含んでいますが、
Sky
Viewで観測地点を赤道付近にすると、自頁の図のような全体図を表す事が出来る。「銀河鉄道の夜」は実に
壮大な夢を与えてくれます。
西の空・・天の川 銀河鉄道の天の川(Sky Viewによる)
銀河鉄道での天の川(Sky Viewによる)
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天の川は、天の川銀河系を内側から見た姿です。銀河系は真ん中が膨らんだ円盤の形をしている。我々の太陽系
は円盤の外側の位置にあります。天の川のいて座の附近は、丁度銀河系の中心の膨らみ(「バルジ」と言います
)の方向で、そのため天の川が広く明るくなっています(前頁の天の川銀河の構造図参照)。
いて座附近は明るいだけではなく中央が暗くなっており、宮澤賢治の「銀河鉄道の夜」では、この暗い部分は
暗黒星雲があり、背景が明るいので余計に暗さが際だって「川が二つに分かれた」ように見えるのです。
七夕
天の川と言えば「七夕」を思い浮かべる人も多いでしょう。 七月七日(本来は旧暦の日付です)に牽牛と織姫が
天の川で会う話です。牽牛はわし座のアルタイル、織姫はこと座のベガとされています。
「銀河鉄道の夜」物語を通じて知る宮澤賢治の隠れた科学的知識
その当時の宮澤賢治が創造していたいろいろ事を以下に紹介します。「銀河鉄道の夜」物語を横において読んで
いただければ幸いです。
1.三角標(星の位置を図る道具)
物語では何度も登場する「三角標」は、異空間のシンボルで、ジョバンニはすぐうしろの「天気輪」の柱がいつ
かぼんやりした三角標の形になって、しばらく蛍のように、ぴかぴか消えたりともったりしているのを見る。宮
澤賢治が星を三角標で表現したのは将来銀河の姿を解き明かしてほしいという思いがあったと思われる。
銀河鉄道から見える星は三角形の形で登場している。銀河世界で”星”を表しているのが、「三角標」という言
葉です。物語の中で何度も繰り返し使われています。こちらは、「天気輪」と呼ばれる言葉とともに宮澤賢治の
造語。三角標というのは、星の位置を測量するための三角錐のような形をした標識のことで、天気輪というのは
天候や菩薩を祈ってまわす念仏車とも言われる。あるいは太陽柱というのが、解釈としては一般的という。しか
し、どれも根拠はとぼしく読者の想像にゆだねられている部分でもあります。
事実、水沢にあるVLBI観測所では年周視差(春と秋に星の位置変化をもとにする)を利用して星の位置観測を観
測している。
三角標は過去地図を作る際に使われた道具であります。
注:水沢VLBI観測所とは、岩手県奥州市水沢区にある国立天文台の観測所である。 国立天文台の中では、現存す
る一番古い観測所の一つであり、1899年以来、同地で観測を行ってきた。
ジャスミン計画(参考)
今、国立天文台と東大中須賀研究所で、より詳細の銀河系の地図を作るためのプロジェクトが始まっています。
天の川銀河のバルジの星の位置を小型衛星ジャスミン(50cm角の衛星、赤外線観測)でもって観測して、銀河
系の進化を調べる目的です。
2.鳥捕り(アインシュタインの相対性理論を想定)
物語では列車から瞬時外に出て、銀河の鳥を捕まえて旅をする様子を描いています。鳥を捕まえると瞬時に列
車に移動する場面があます。銀河鉄道では一晩かかって旅をするはずが、物語では地上に戻ってくるに45分しか
かからないという。矛盾する時間経過が描かれている。これは何を意味するのでしょうか?
時間と光の概念を意味していますね。宮澤賢治は近代の物理学の革命的出来事をすでに想像していたと考えられ
ます。すなわちアインシュタインの4次元の世界(アインシュタインの相対性理論である)を意味している。
物語では宮澤賢治は幻想第4次元と表現しています。これは確証出来ていなかったための表現と思われます。
相対性理論は空間や時間は絶対的でなく、物体の速度や重力の影響を受け、空間はゆがみ、時間の進み方が違う
という理論ですね。
すなわち、空間三次元(縦、横、高さ)に時間が流れる、空間と時間が混ざると一緒になるこれは四次元時空(
縦、横、高さ、時間)という言い方をする。この事を宮澤賢治は知っていた事への驚きがあります。
1922年アインシュタインは来日、東北地方にも来ているが宮澤賢治は会っていない。しかし宮澤賢治は農学校
で数学や科学を教えていたので、アインシュタインに興味を持ち、相対性理論を一人で研究していたと思われま
す。
3.もう一つの不思議な描写、速度の概念について
銀河鉄道では一晩の内に、はくちょう座から南十字星に進んでいる。
距離は、少なく見積もっても14.4光年、光の速さで進んでも14年以上かかりますね。これは単に想像の世界の
事ではない、現代の最先端の科学で説明出来るとカリフォルニア大学のドンマロロア教授は言う。
最新の物理学「ワーム・ホール」を用いれば一晩のうちに、はくちょう座から南十字星に進む事は可能であると
いう。
ワーム・ホールは光さえも飲み込む強い重力を持ったブラックホール、その何でも飲み込むブラックホールの反
対側には逆に何でも吐き出すホワイトホールがあるという理論という。
この2つは穴で繋がっていると考えられ、時空の虫食い穴、ワーム・ホールと言われている。
リンゴでワーム・ホールを説明する
「りんご」の実にあけられた「虫食い穴」から由来しているもので、「ワーム」というのは「芋虫」のこと。
ワームホールという名前は、1957年にジョン・ホイーラーという物理学者が付けたものだそうで、その発想
の由来は、りんごの内部の虫食い穴を通れば、表面に沿って移動するよりも近道になるということです。この図
で、AからBへ行くのに、実線のように移動するのと、点線で移動するのとの違いです。
平面においては、このような「近道」はありえませんが、りんごの表面は一種の球面で「歪み」を持っている
ために、このような現象が起こるのです。
このワームホールを使えば一晩で天の川を旅する銀河鉄道の時間移動は可能である。
ただし、ワームホールの中に宇宙船を普通に入れれば強い重力で押しつぶされることになるが、重力をコン
トロールすれば可能であるという。
いつかワームホールの世界を手に入れればこんなことが出来るという。
この物語の素晴らしい事は時間に空間の概念が知的に想定されている事ですね。
4.輪廻転生の思想(仏教思想)・・暗黒星雲(物語での石炭袋)
旅の終わりにジョバンニとカンパネラは南十字星に到着すると大きな闇の黒いものが現れる。天の川ひとところ
に大きな真っ黒な穴がどんと開いている。
ここでジョバンニはカンパネラが居ないことに気づく。地上の街に戻るとカンパネラは川で死んでいた。
カンパネラが死んだ、消えた石炭袋は実際に南十字星の近くに黒く見える暗黒星雲と呼ぶもの、当時は星の無い
ところと考えられていた。
暗黒星雲は星が少ないのではなく様々な分子のガスが集まったところで星が生まれている。
星のないところになぜ宮澤賢治はカンパネラの死を選んだのか、死に対する考え方、そこから何か生まれ
るのではないかという希望の祈りがあったと考える。宮澤賢治は死の先に何かを見ていた。
世のすべての物、人間の体も分子で構成されていてやがて散って行き、そして別の生を受け継ぐと宮澤賢治は考
えた。そうした輪廻転生を考えていたと言われる。
宮澤賢治の言葉
「もろともにかがやく宇宙の微塵となり無方の空に散らばろう」(農家芸術概論)
銀河鉄道に現れる暗黙の正体、暗黒星雲は星の輪廻転生の場であった。
宮澤賢治は『農民芸術概論綱要』の中に「まづもろともに輝く宇宙の微塵となりて、無方の空にちらばろう」と
の言葉を記し、輪廻転生を強く意識していた。科学的な根拠は知る由もなかっただろうけど、「石炭袋」は星の
死骸が集まり、新しい星が誕生している場所なのです。輪廻転生の場所ということが出来る。
暗黒星雲
暗黒星雲の研究がようやく始まるのは1950年代。高感度撮影ができるようになり、ようやく雲のようなもの
が写真に写った。
1970年代になって、宇宙空間にも分子があることがわかり、暗黒星雲は星が生まれているところであることが
分かった。
生命誕生のもとなる有機物質も宇宙空間で生まれたのではと考える物理学者もいます。
暗黒星雲は自ら光を出さず、うしろの星たちの光をさえぎっているので、ぽっかりと黒く浮かび上がって見える
のです。
また暗黒星雲は冷たい低温のため、ガスや塵に含まれている水素が分子の状態になります。よって「分子の雲」
と呼びます。
6.宮沢賢治に関する補足資料
梅原猛の見解、自然と共存する世界は宮澤賢治の童話の世界にも見る事が出来るという。
-自然と共存する思想“草木国土悉皆成仏”
日本の古来からある自然と共存する思想、それは“草木国土悉皆成仏”と言う仏教の言葉に象徴されると言う。
草も木も土や風に至るまで、地球上のありとあらゆるものに仏が宿る。人間と同じように魂を持つという考え方
です。
人間だけが特別な存在だけでなく、すべての物が地球の一部に過ぎない。この思想は縄文時代以来、日本人の考
えを受け継いだものと梅原さんは考えている。
それはその草や木も国土、石が国が煩悩を持っていた生き物である。それらは仏性を持っている、成仏出来るの
ではないかと言う思想です。
参考:日本の国歌「君が代」の歌詞はそれを表現しています。
-宮澤賢治の世界
梅原さんは言う、宮沢賢治は山猫、くま、イチョウ、蓼、雪など地球上のあらゆるものを主人公に詠った。中で
も梅原さんが注目するのは“イチョウの実”の童話です。
地球上のあらゆるものが人間と同じように感情をもつ、植物が意志を持っている動物的思いとだいぶ違う、植物
を中心にみて、そして植物と言うものは多様性を持っている。やはり植物が共存する、植物が意志を持っている
思想と動物的思想とはだいぶ違う。やはり共存する意志、そう言う植物中心の世界観、私には近代思想と言うの
は、近代は天動説から地動説に変わったと言うけれども哲学としては地動説じゃないかと考える。人間のまわり
をずっと回っている。そう言う人間中心主義的哲学はむしろ生きとして生きるものが存続すると言う“草木国土
悉皆成仏”の思想に帰られねばならないのが一つです。
7.宮澤賢治の生立ちから見た宗教観、宇宙観
法華経に影響を受けた宮澤賢治の独自の宗教観
宮澤賢治は、両親の影響から浄土真宗を信仰して育ちました。裕福な家庭に生まれた賢治は、貧しい暮らしをし
ている農民たちを間近で見ていて耐えられなくなります。宮澤賢治はキリスト教にも興味を持ち、知識を得てい
ます。そして最終的に宮澤賢治が辿り着いたのが、法華経でした。最愛の妹トシはキリスト教の影響を強く受け
ていましたが、一方で法華経に傾倒する賢治に理解を示し、トシ自身も法華経を学んでいます。
宮澤賢治さんは子どもの頃から常にお寺に出入りしていましたが、当時、花巻の真宗門徒には裕福な家庭の人が
多く、宮澤賢治さんの家は質屋を営み、貧しい農民を相手にしていました。そのギャップを生活の中で感じ、仏
教とは?という疑問が生じたのでしょう。
童話『どんぐりと山猫』では、比べられない命をテーマにしています。この作品には仏教の世界観が流れている
と感じます。
宮澤賢治さんは科学者でした。ある日、宇宙飛行士の毛利衛さんが岩手に来られました。『銀河鉄道の夜』を読
んだことが宇宙飛行士になるきっかけになったと言っています。
物語には「国土」という言葉が出て来ます、宮澤賢治は「仏国土」という宗教的な意味において用いられている
のだろうと思われます。宮澤賢治はここで、はるかに山や大地を見渡して、どこかに埋められている仏の言葉や
埋経をした人へ思いとともに、この世界全体への静かな愛を謳っているようにも感じられます。
『草木国土悉皆成仏』を如実に表している文学者は『宮澤賢治』であると、前述しましたが梅原氏は指摘してい
ます。人間以外の主人公が登場する『宮澤賢治』の童話は、同じく動物が主人公のイソップの童話とは決定的に
視点が異なっているということ。イソップの童話は『教訓』であるのに対し、『宮澤賢治』の童話は『死生
観』『自然観』そのものであるという説明しています。
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