ところざわ倶楽部          投稿作品       エッセイ&オピニオン

 ≪一寸庵閑話≫  

        
ひとり旅はするものではなく創るものだ
                                                      
2019 -10-20  記 ケン・シェイクスビア

                            

 私の「ひとり旅」の師・ドイツ文学者 池内紀(さとし)さんが亡くなりました。『ひとり旅はするものではなく創るものだ』。この言葉にひかれ、「ひとり旅」を始めました。池内さんのご冥福を祈ります。
 JALの広報誌AGORA7月号の『坂に誘われて 大分・杵築』を読んで行きたくなりました。うちの秘書兼ケアマネ兼海外旅行添乗員は松山、広島に、私は杵築、別府に旅立って、福岡で合流すことにしました。

▼10月某日 昼前に大分空港に降りました。4年前 国東半島、中津へ行ったときと同じ便です。バスで杵築城へ。1394年に海と川、三方を囲まれた高台に建てられた城。



杵築城



杵築は江戸時代に南北の高台に武士が、間の谷間に商人が住み、南北を美しい石畳の坂が結ぶ街並みがひろがっています。酢屋、勘定場、塩屋、番所・・・これらは坂の名前。坂を上ったり下りたり、また上ったりしました・・・。



    
杵築市 酢屋の坂              勘定場の坂     
   


 昼食は320年つづく若栄屋で鯛茶漬け『うれしの』をいただきました。殿様が鯛茶漬けを『うれしいのう』と絶賛したので名前にしたとか。たっぷりの鯛の切り身にゴマだれと熱いお茶をかけて鯛の刺身と焼きナスと・・・。




 若栄屋 蟹茶漬け


10月某日 40年ぶりに『別府鉄輪(かんなわ)温泉地獄めぐり』へ。海地獄、かまど地獄、鬼山地獄、白地地獄をゆったりと足湯に浸かったり、温泉タマゴやアイスを食べて・・・。海地獄のひろびろとした空間が良かったですね。W杯ラグビーが大分であるので西欧からの旅人が多かったです。熱気にあてられたので、福岡天神行きの特急バスに乗って2時間ほど寝ました。『無理はしない、自己責任』ひとり旅の鉄則です。


海地獄


▼10月某日 福岡に来ると必ず行く『鮨やま中 本店』へ孫たちと。平素は質素に旅に出たらちょっぴり贅沢に、が私の方針です。やっぱり美味しかったです。ここで解散し、私はひとり2年半ぶりにリニューアルして再開した福岡市美術館の『仙厓と禅の美展』『松永安左エ門記念室』へ。仙厓は〇□△の禅画や墨蹟が有名です。私の好きな博多祇園・聖福寺の住職でもありました。


聖福寺境内

BSで『イツァーク・パールマン』を見ました。イスラエル生まれ。幼少にポリオにかかり下半身が不自由になりますが、それを乗り越え世界的なバイオリニストに。彼の「ストラディバリウス」は1714年製で、ハイフェッツから譲られたものです。マルタ・アルゲリッチなどクラシックの名手だけでなくビリー・ジョエルらとも共演。『バイオリンが好きだから自分だけの音を出したい。』といいます。

10月某日 大宰府へ。参拝してから大宰府の「梅が枝餅」をほおばりながら国立九州博物館の『三国志展』へ。上野・国立博物館では混雑していたので、福岡で観ようと決めていたのです。
 10年ほど前に発掘された曹操の墓の実寸再現や曹操の再評価の紹介、最古の白磁、赤壁の戦いのすさまじい矢の再現、劉備の先祖が持っていた豪華な酒壺、私が好きな関羽、その髭面のイメージを変えるりりしい人間関羽像、さらに若い時に読んだ吉川英治の「三国志」とちがった三国志を、この展覧会で知ることができました。


三国志パンフ・関羽像


10月某日 福岡市博物館の『侍展』へ。国宝が鎧で2点、太刀・刀・短刀で13点、重要文化財が68点展示され圧倒されました。最も長い159cmの太刀、上杉謙信・景勝所用の刀、秀吉愛用の短刀、信長が官兵衛に与えた刀など国宝の見事な刀身の光を見せていました。反りの曲線美、刃文、地金の美しさ、銘を彫った茎(なかご)など見てあきません。刀を横からではなく正面から見ると、その極限の美しさを感じます。2時間半たのしみました。



福岡市博物館 侍展


台風19号の被害を受けずに今回の「ひとり旅」を無事終えて、動ける身に感謝しています。  (完)