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「強いお酒の話」

                         2020 5-15     記 玉上 佳彦
                                                      
                           
 


 最近のコロナウイルス感染予防のために、アルコール度数の非常に高い酒が注目されている。特にポーランド産のウオッカ「スピリタス96」をアルコール消毒用に使えないかということが話題になっている。この時期に話題となった日本にもアルコール度数の高い日本酒や泡盛があるらしいが世界各国には、非常に強いお酒が数多くある。

「マルガリータ」という冷却したグラスのまわりを食塩で飾った有名なカクテルをご存知だろうか。ものの本によると「テキーラをベースにした・・・」となっている。しかし、私にとっては、ベルー原産のピスコという強い蒸留酒のカクテルがなじみである。インカ文明を滅ぼしたスペインの文化とインカ文明が融合された豊潤な味わいのあるカクテルの名品と思っている。

 ピスコというお酒は、ぶどうを原料にした無色透明なペルーの蒸留酒で、アルコール度数は4060度だったと思う。同じぶどうを原料にしているのだが、ワインやブランデーとは全く異なった香りや味を有しており、メキシコのテキーラ(原料はリュウゼツラン)や中国の白酒(原料は雑穀類)などに近い庶民のお酒である

 私は、1970年代半ばに、ペルーを拠点にして、約6ヶ月間、中南米を放浪していたが、その頃毎日、リマ市内の下宿でペルー人やヒッピーの友人らと共に、この安くて、強くて美味いピスコを痛飲していたのを思い出す。その後、私は各国のこの種の強い酒に興味をいだき、実際に、各国のお酒を味わいながら研究(?)してきた。

 中南米には、前述のピスコと同じく、強くて比較的安い蒸留酒として、メキシコのテキーラ(原料:リュウゼツラン)、ブラジルのピンガ(原料:サトウキビ)、ボリビアのシンガニ(原料:マスカット)、パラグアイのカーニャ(原料:サトウキビ)、コロンビアのアグアルディエンテ(原料:サトウキビ)、ネパールのロキシー(原料:ひえ)などがあり、私はそれぞれの国で味わってきたが、その国の料理によく合っているのではないかと思っている。

 ヨーロッパでも、ロシアのウオッカ、北欧のアクアビット、ドイツのキルッシュワッサーなどが有名である。各国それぞれ原料も風味を異なるが、共通していえることは、全て無色透明で、アルコール度数が50度以上の強いもので、それがその地の風土と食文化の一部として、しっかりと根を下ろしているように思われる。

 日本では、焼酎や沖縄の泡盛が、これに近いものだと思うが、昨今の焼酎ブームによって、女性に好まれるファッション化したアルコール度数の低いものが出回り、かつての芋焼酎のような強烈な風味の酒がなくなりつつあるような気がして残念である。

 九州地方を除いて、日本に強い蒸留酒があまりないのは、なぜであろうか。その理由の一つは、人種的にみて、日本人が酒に弱い体質だからではないかと思う。アルコール分解酵素の多寡が云々されているが、もともと魚と野菜を中心に、四季に合わせた、極めてデリケートな食文化を作り上げてきた日本にとっては、強い酒を受け入れる条件が、体質的にも環境的にも、そろっていなかったのではないかと思う。

 私は、安くて強いお酒は嫌いではない。本当のことをいうと大好きである。私は、この種の酒を呑むために、世界中を彷徨してきたような気がする。その中で共通していえることは、どこでも、原始的な2種類の酒が存在していたのではないかと思っている。その1つは、日本のどぶろくのような単純素朴な濁り酒的な醸造酒であり、もう一つは前述してきたピスコやテキーラなどのアルコール度の極めて強い蒸留酒である。高度に文明化された国々では、この2タイプの酒は姿を消しつつあるようで残念だが、中南米では庶民の酒として、依然として根強い人気を保っていることは、うれしい限りである。



  
スピリタス96°       インカピスコ42°        琅琊台70°


 私は、1989年に初めて業界団体の研修旅行で中国に出張した際に、中国の強い酒「白酒」に接する機会があり、私にとって非常に向いている酒であることがわかり、中国が好きになってしまった。以後、2003年から中国の子会社に駐在し、現在でも中国の食品会社の顧問をしているが、中国各地の白酒を好んで痛飲してきた。中国で白酒を呑んだことのある人は、嫌いな人が多いと思うが、私にとっては大好きな酒である。


 白酒は、「茅台酒」や「五粮液」などの高級品は別にして、中国の各地(主として北部、西部)に多くの醸造所があり、それぞれ独自の原料(粟、ヒエ、コーリャンなどの雑穀)で、製造されている庶民の地酒である。天津駐在時には、天津産の白酒で晩酌していたが、身近にいた中国人は呆れていた。

 私が、中国で味わった白酒では、最も強くて、印象に残っている酒は、山東省の青島で売られている「琅琊台」という白酒で、アルコールは70度である。青島に出張するたびにこの酒を買って帰ったものである。

 最近の日本の食生活は、かなり欧米化しつつあり、又、体力的にも優れてきているので、強いお酒を中心にした、新しい日本の食文化が出てきてもいいのではないかと思っている。

 呑兵衛の皆さん、原点に戻りませんか。体力をつけて、強いお酒を美味しく呑んで、楽しく酔いましょう。そして、翌朝は、頭をスッキリさせて、アフターコロナの世界に向けて、思いを巡らせましょう。